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作家、とりわけ、忘れられた作家やマイナーな著述を研究するとはどういうことか。どういう表現を、どういう作家や資料を、文学研究はとりあげるべきなのか。研究方法そのものを問い直し、文学研究の意義や方法を新たに見出していこうとする書。
本書は、ある一人の職業作家の、生活と出版環境との関わりに踏み込み、作家や小説の価値をとらえなおそうとする。そこではどういう点に、作家を研究する意味、面白さは見いだせたのだろうか。
その作家の半世紀にわたる詳細な日記から、小説の解釈、あるいは作家の伝記的な事実確認といった従来の文学研究を超えて、生活者としての作家の情報をもとに、出版・読書環境を浮き彫りにし、その変化をとらえ、戦後の長い時間的なスパンの中で、作家が職業として読み、書く行為をとらえる。本書により、文学研究は、その対象や方法の可能性を広げ、他の研究領域と問題意識や関心を共有してゆくことも可能になるであろう。
本書は論考編と日記データ編の二部構成となる。論考編である第一部「作家とメディア環境」は、それぞれの論者の問題意識から日記データを活用しつつ展開した論文によって構成。そして第二部「日記資料から何がわかるか」は、日記データのうち、作家の生活に大きく作用していることが日記からうかがえるテーマを中心に、日記本文が読めるよう日記の記述を抽出し、集成する。最後に人名リストを付す。
執筆は、須山智裕/加藤優/田中祐介/中野綾子/河内聡子/大岡響子/宮路大朗/康潤伊。
【本書は最初に述べたように、榛葉英治を偉人化、神聖化することに関心を向けてはいない。また、その小説自体に不変の価値を見出そうとしているのでもない。そうした自立(孤立)した価値を対象に見出そうとしているのではなく、その時期の流行や出版環境、経済状況といった諸々の、いわば「不純な」要因と関係し合ったものとして作家や小説の価値をとらえることに関心を向けている。そしてこうしたとらえ方をする際に非常に有効なのが、日記という日々の多様な情報を含んだ資料であった。小説を書くという営みを、文学という「純粋な」思考の中でとらえるのではなく、職業としての作家を生きる雑多な生活情報や人間関係のネットワークの中でとらえられるからである。】……あとがきより
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