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12世紀のアルメニアはビザンツ帝国をはじめ十字軍に関わるローマ,そしてイスラームやペルシャなどの多くの国家に囲まれ,民族や宗教の統合のために多くの苦難に直面していた。この時代を代表する詩人・文学者の修道士ネルセス・シュノルハリの生涯を通して,正教会とアルメニア教会の一致と,多くの文学作品により民族の統一に果たした彼の役割を歴史的背景の下に考察する。わが国だけでなく海外でも知られていないアルメニアの教会と歴史を通して,キリスト教史で見落とされがちな東方の諸教会に新たな光を当てた画期的な業績である。
451年のカルケドン公会議で公認された「一なるヒュポスタシス・二つの本性」のカルケドン信条に対し,アルメニア教会は「受肉したロゴスの合一した一なる本性」を教理に採用,この対立が12世紀の教会合同の争点となった。シュノルハリは教義の違いを相補的な関係として,双方ともに有効であると主張した。
キリスト論は「受肉したロゴス」という「人間となった神」が主題で人間の探究を意味し,さらに教会を「キリストの体」と見なすパウロのキリスト論は教会論であり,それを踏まえてシュノルハリのキリスト論を解明する。
第1部では教会合同に携わる以前のシュノルハリの生涯と作品を跡づけ,晩年のキリスト論の思想的発展の意義を検討する。第2部では,シュノルハリの政治的立場がキリスト論に与えた影響を明らかにする。
ウクライナの現在とアルメニアの過去を考える時,歴史に翻弄される小国の姿が鮮明に浮かび上がってこよう。
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