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冷戦時代ははるかな過去になり、世界の多極化が昂進するする現在にあって、改めて「亡命」という言葉を通して人間の存在様式の原型をあぶりだす、独創的な世界文学論。
サントリー学芸賞受賞の画期的名著の増補改訂版。
本書の旧版が出た二〇〇二年は、亡命という切り口で文学論を一冊まとめるということがまだ新奇な感じがしていたころで、幸いそれなりに読者の手ごたえもあったが、それから二十年経ち、「亡命」をめぐる状況じたいも大きく変化してしまった。〔……〕
こういった現状を踏まえると、いまや亡命者を特別扱いするのではなく、人間の世界的な移動・移住を視野に入れた越境文学論、ディアスポラ論のより大きな枠の中でとらえる必要があるのではないかとも思えてくる。〔……〕しかし時の流れ、世界の変化ともに研究者の考え方も変化するのはいわば当然のことであり、無理に整合性をもたせず、必要最小限の加筆訂正を加えただけでどちらも収録してある。読者には、体系的な論述にもとづいて導き出されるある種のカチッと固定された結論を本書に求めるのではなく、この本の著者の世界文学遍歴と時の流れのなかで常に変化していく流動性を楽しんでいただければ、と願う。――(本書「はじめに」より)
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