言語はどこまで事実を忠実に写し取って伝えられるのか。写し取るときの言葉の選択や意識の問題、伝えるときの受け手の理解の問題、言語そのものが孕む諸問題など、ざっと思い浮かべるだけでも、言語と事実との間には多かれ少なかれ隙間があることは明白である。
したがって、対象には常に曖昧性がつきまとい、その曖昧性ゆえに日常は悲喜劇が頻繁に起こる危うさに満ちている。そうした危うさの真ん中に人間は生きており、そうした危うさに文学表象は拠って立っている。現実が悲惨であればあるほど、それを写し取ろうとした結果としての言葉に、問題は先鋭的に現れよう。たとえば、戦争の表象はその一例である。そこは、人間同士の殺し合いの最前線であるとともに、現実と言語の葛藤の最前線である。
こうした問題について論じることが本書の目的である
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