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昨日、クラス全員の高校合格発表が終わった。教室にはクラスメイトたちの弾む声が響いている。秋山美咲が目をやると、窓側のいちばん前の席で、ひと月ほど前に転入してきた渡辺和也がいつものように机の上につっぷしている。美咲は和也に「ねえ、持ってきた?」と声をかけるが、和也はぴくりとも動かない。和也は遅刻常習犯、気に食わないことがあるとすぐキレる。クラスの誰からも無視されているような存在だ。
美咲はクラスの委員長であり、卒業祝賀会の委員もつとめている。卒業祝賀会は生徒が主催して親を招待するのがならわしで、スライドショーと親への感謝の手紙贈呈は祝賀会の中でもいちばん盛り上がるのだ。和也はそのスライドショーに使う幼少期の写真を、何度いっても持ってこない。しかも、やさしく声をかけたきょうも、また無視だ。「感動を呼ぶ祝賀会を完璧にしあげなければ」ということを正義と思う美咲には、和也の態度は許しがたい。そして理解できない。わたしは「真のリーダー」として、学年主任の前田先生からも認められているのだ。和也にはぜったいに写真を持ってきてもらわねば──。
同じ祝賀会委員のひとり、本間哲太は、学校で見せない和也の顔を知っていた。和也の父親とふたりの生活は、食事もろくに食べられない暮らしなのだということを──。
写真を持ってこない和也を「甘やかしてはいけない」と思う美咲。一方、哲太は「事情があるはずだ。俺は和也のことをもっと知りたい」という。
そんなとき、和也が児童相談所に保護されたという。そして、祝賀会委員たちはしだいに和也の置かれている状況を知ることになり、それぞれが迷いながら自分のあり方も見つめ直す。
「正しいけれど、何かが違う」「正しいけれど正しくない」そういったことが世の中にはいくつも岩のようにごろごろと転がっている。答えは見つかるのか、見つからないのかわからない。でも、正しいか否かを考えることを放棄したくはない──そう考える中学三年生の姿を、貧困家庭に生きる子どもたちの姿を描いたデビュー作『15歳、ぬけがら』で各方面から高い評価を受けた栗沢まりが描く。
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