精神科医・神田橋條治がわが道を極めた三人の心理臨床家たちと行った対談を一冊にまとめたもの。神田橋の卓抜なインタビュアーとしての技が、三人の臨床家それぞれの特質を見事にとらえ、それを豊かに引き出してゆく。
冒頭の増井武士との対談は、かつて分析家(スーパーヴァイザー)?被分析家(ヴァイジー)であった二人の当時の様子を彷彿とさせ、熟練の域に達してもなお師に教えを請う姿勢をとる増井の姿からは、よりよき「臨床」を追い求め続ける実践家の真摯さが伝わってくる。
次の村山正治との対談では、村山が学生の頃に出会った恩師たちの言葉や、黙ってじっと待ってくれたことなど、学生を育てる際の根底に、自身の若かりし日の苦悩の経験があることが明かされる。さらにカール・ロジャースとの出会い、彼からの学び、自分にとってのエンカウンター・グループについてなど、村山が臨床において何が大切かをひたすら考え、追い求めてきたことが、そのまま次世代を育てる際に生かされていることが理解できる。
最後の成瀬悟策との対談では、年長の成瀬への神田橋の気遣いや配慮が随所に感じられるが、時には鋭く切り込む場面もあり、癒しと緊張とが刻々、ない交ぜになってゆく。「心」と「体」の関係から始まり、成瀬が古澤平作に精神分析を受けたときの話、ことに動作法に関しては、理論と体験について、自己治療ということ、どこまで治療するのか、技をどう伝えるのかなど、創始者である成瀬にしか聞けない話が続き圧巻である。
本書は、心理臨床実践を支える根幹に触れるものとして臨床家必見の対談ではあるが、その道の個性豊かな匠たちのいかにも人間らしい、飾らぬ魅力に満ち溢れた語りとしても、十分楽しみながら読むことができる。
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