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報道の危機が叫ばれて久しい。そうしたなかで災害報道も苦境に瀕している。被災の現実を迅速に伝えようとしても、逆に被災者に迷惑をかけてしまう事態がネットにさらされ、「マスゴミ」と揶揄される始末である。情報の伝え手と受け手の信頼関係が底抜けしている。徒労感や閉塞感が充満している。情報テクノロジーが高度化すればするほど、情報空間は貧しくなってきているとさえいえる。
こうした事態を真摯に受け止めるとき、これまでに何度も議論の俎上に載せられてきた「災害報道のベターメント」の問題に関して、解決に向けたあらたな一歩を踏み出すためには、虚心坦懐に理論の立脚点を問いなおしたり、実践上のアプローチを替えてみたりすることが求められるのではないか。これが、本書の核となる問題意識である。
満身創痍の災害報道に対する処方には、特効薬はない。しかしだからといって、場当たり的な対症療法に終始するのではなく、根本治癒を目指したものでなければならない。
そこで本書では、まず「情報」の特性を再定義して、コミュニケーションモデルを描き直し、リアリティの水準から論を興す、新たな地平に立つことにした。人々の命を救う緊急報道、人々の命を支える復興報道、人々の命を守る予防報道の三局面に関して、災害報道のありかたをトータルにまなざす視座を確立しようとしている。
そのねらいは、本書の構成を外観すれば容易に理解されるであろう。第Ⅰ部は、理論編。情報学の観点から、本書のキーコンセプトであるリアリティとは何なのか説明している。第Ⅱ部は、分析編。第Ⅰ部で抉出したセオリーで、現況の災害報道の課題点を再整理してみせる。そして第Ⅲ部は、実践編。空理空論を言い放しにするのではなく、筆者自身が尽力しているプロジェクトを例に、「災害報道のベターメント」の勘所を探索している。理論と実践を往還すること。理論を実践で鍛え上げ、実践を理論で彫琢すること。これこそがいま、問題解決型のアカデミズムにおいてもジャーナリズムにおいても求められている。
自然災害・社会災害が頻発する現代社会において、災害報道をめぐる根本問題にメスを入れることは、すでに待ったなしの状況にある。ただしそこで、短絡した発想を持ちこんで事態の上書き・上塗りをするのであれば、かえって混乱の渦を激しくする逆機能を起こすにちがいない。大胆に、かつ冷静に。「災害報道学」(Disaster Journlism)の礎石となることを目指した待望の書が、ようやく世に放たれる。
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