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演劇とは,どのように発生し,人間や社会にとってどんな意味を持つのか。
かつて王国維は歌舞,所作,科白,物語が統合されて演劇・戯曲が成立したとする多元論を唱え,中国では現在もその主張が優勢である。しかし著者はその真逆に立ち,最初に祭祀があり,巫覡の神がかり状態が時とともに進化し,各要素が洗練されて独自の芸術として演劇が発生したとの祭祀一元論を提唱してきた。
本書は祭祀演劇の社会・経済的な基底部分にも焦点を当て,中国演劇の誕生から民国期までの展開を解明する。まず古代の演劇発生を祭祀起源一元論として詳しく解説した上で,各時代の問題点を時系列的に考察する。中国における演劇の端緒である宋・元の仮面の演出,南宋初期における仏典『目連救母経』の成立,そして明代初期には江南同族社会で徐々に祭祀との未分化状態を脱し,人間的な演劇が成長しつつあったことを論証する。すなわち明代の湯顕祖『牡丹亭還魂記』は,近代個人主義の萌芽と相まって演劇が祭祀演劇の構造から脱却する転換点となった。さらに考察は清代に及び,昆曲の俳優ギルドや劇団の資産形成を分析し,また裁判記録や朝鮮使節の記録に基づき村落や市場地の演劇状況を検証する。
演劇を支える主体が宮廷から商人,工人集団へと拡大する歴史的要因の分析は,中国史研究に新たな視座を提供する。また中国文学のみならず,日本の芸能史や現代演劇にも豊かな示唆を与えるに違いない。中国演劇研究の第一線で活躍してきた著者の集大成である。
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