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2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」でも、重要な役柄で登場した川路聖謨(かわじ・としあきら)。幕末の動乱期、黒船来襲・開国要求の外圧の嵐ふく中、北方領土を求めてきた大国ロシアを相手に一歩もゆずらず、和親条約締結にこぎつけた川路聖謨は、その数年前まで奈良奉行を5年あまり務めた。
「五泣百笑(博徒や悪徳僧侶・役人・商人、裁判の短期化で泊まり客が減った公事宿の五つが泣き、百姓・庶民が笑う)」の奉行と呼ばれた彼の人柄、その思想・信念が、さまざまな事件や家族・部下たちとのやり取りの中に浮かび上がる著作である。
2016年11月に発刊した『桜奉行 -幕末奈良を再生した男・川路聖謨』(養徳社刊)のその後、奈良奉行時代の話と、江戸城開城の日に自決するまでを描いている。
奈良奉行に赴任したのは春、桜の季節だった。
川路は、「花の都」と聞いていた奈良の、桜も枯れ、人心も荒廃した様に驚いた。貧民救済、犯罪取り締まりの強化、地場産業の振興、教育の充実など、次々と施策を実行した。「桜楓の植樹運動」も、その一つである。
庶民が参加できる形をとりたいと、知恵を絞った。その思いは現在まで受け継がれ、地域住民の協力もあり、奉行所のあった現奈良女子大学の北を流れる「佐保川」の両岸には、千本といわれる桜の木が美しい花を咲かせている。川路が自ら植えたと伝わる「川路桜」も健在だ。
文武両道、その上詩文の心得もあった川路は、妻のさとと詩を読みあい、また、ジョークも飛ばすウィットに富んだ男だった。家族や部下たちとの軽妙なやり取りは、読んでいて微笑ましい。
江戸幕府に殉じた彼は、大分日田の下級武士に生まれ、幼時に江戸へ出てから、異例の出世を果たす。その根っこにあるのは、正に「人間力」と言えるだろう。自らには厳しく・人にはやさしい。5年あまりに及ぶ奈良奉行退任の時には、庶民たちが別れを惜しみ、何キロにもわたって沿道をうめつくした。数年後、ロシアとの交渉に長崎へ向かう道中、沿道に奈良の人々が列をなしたという。
誰もが人生を送る上で持ち得たい、と願うものを彼は備えていた。そう思わせる物語である。
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