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真の「幸福」とは
携帯電話、パソコン、テレビ、洗濯機、電動工具、時計、ガスコンロ、蛇口の水も、いっさいない暮らしがはじまった。究極の生活から見えてきたのは――
『ぼくはお金を使わずに生きることにした』著者の新たな挑戦!
3年間お金なしで暮らした著者が、今度は電気や化石燃料で動く文明の利器をいっさい使わずに、仲間と建てた小屋で自給自足の生活をはじめた。火をおこし、泉の水を汲み、人糞堆肥で野菜を育て、鹿を解体して命を丸ごと自分の中に取りこむ。地域の生態系と調和した贈与経済の中で暮らす1年を、詩情豊かに綴る。
アイリッシュ・インディペンデント紙「ブック・オブ・ザ・イヤー2019」
<本書より>
明日から小屋で電気のない生活――長いあいだ当然視してきた文明の利器、すなわち電話、コンピューター、電球、洗濯機、蛇口の水、テレビ、電動工具、ガスコンロ、ラジオも、一切ない暮らし――がはじまるという日の午後、一通の電子メールが届いた。ぼくが受けとる人生最後のメールとなるかもしれない。差出人は出版社の編集者だった。その日の新聞に寄稿した文章を読んで、体験をもとに本を書く気はないかと連絡をくれたのだ。
二〇代はじめの自分をふりかえると、自尊心の源はおもに「どれだけ多くカネをかせいだか」であった。最近では「必要とするカネがどれだけ少ないか」が自尊心の源になっていることに気づく。
丸一日の休みを最後にとったのは、いつだろう。こういう暮らしでは、何もせずふとんにくるまって過ごす一日など、命にかかわりかねない。ひねるだけの蛇口、押すだけのボタン、タイマー設定するだけのセントラルヒーティング、気軽に立ち寄れるカフェ、一日じゅうのんびりさせてくれるスイッチ類など、そうした便利なものは何ひとつありはしない。つねに、例外なく、何かしらすべき仕事がある。
裏返せば、ほぼ毎日、生きている実感をおぼえるということだ。
ピーナッツバター、バナナ、天日干しのドライトマトなど、アイルランドでは自給不可能なごちそうを懐かしく思うときもあるが、それもごくたまにの話だ。それに、広い世界でたとえどんな危機や大変動が起きようとも、自分自身や隣人や愛する人のための食卓をととのえる方法を知っていれば、本物の安心感が得られる。
健康のための時間をつくらずにいると、病気のための時間をつくるはめにおちいる。
自然の猛威を感じとりたい。よけいな物をはぎ取ったあとに残る本質を味わいつくしたい。本物の親密さを、友情を、コミュニティを知りたい。真実を探求して、そんなものが実際に存在するのかどうか確かめたい。たとえ存在しなかったとしても、少なくともぼくにとっての真実に近いものを見つけたい。寒さや飢えや恐れを感じたい。単に生命を維持するだけでなく、生きている実感を持って生きたい。そして、そのときが来たら、あわてず騒がず森へ行き、森の生物たちにぼくの肉体を食べさせてやる心づもりをしておきたい。
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