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EUの歴史的原型として位置づけられる10世紀のヨーロッパ。しかしそれを今に伝える史料は乏しい。本書は,ドイツ,オットー朝期(919-1024)の四大叙述史料の一つを詳細な訳注とともに提供する。
包括的に描かれるのは,著者ティートマルが自ら管轄するメールゼブルク司教教会の歴史と,オットー朝の5代にわたる歴代国王・皇帝の歴史である。特に10世紀末オットー3世から11世紀初頭ハインリヒ2世の統治に関する記述は唯一無二の同時代史料として価値が高い。東方のスラヴ系諸民族のキリスト教化を任務として設置された司教座ゆえに,ポーランド大公ボレスワフとの15年に及ぶ戦役を詳述,またスラヴ人のアニミズム信仰や社会構成に関して克明にかつ冷静に叙述される。奇蹟,予言,幻視,悪霊,亡霊など,キリスト教と異教との間の宗教史・文化史的証言や,決闘裁判など社会制度の一端をも垣間見せる。
さらに本書は,ティートマル個人の親族や友人および自分自身の救済への願いと,後世への教訓を込めた記録でもある。折々に表明される彼の敬虔な信仰心,家族や友人への情愛,生と死に苦悶する感情の発露,そして厳しい自己批判の言葉は,千年の時空を越え今日のわれわれにも深い共感を呼び起こす。
明快な訳文と丁寧な注,解説や索引により,読者は個々にテーマを発見し,関心を深められるであろう。西洋中世史研究の基礎を築く意義深い業績である。
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