同行者が綴る「ぶらぶら歩きの天才」の相貌
カフカやゼーバルトなど、現在に至るまで数多の書き手を惹きつけてやまないドイツ語圏スイスの作家、ローベルト・ヴァルザー(1878-1956)が散歩中に心臓発作で亡くなった翌年に刊行された本書は、ヴァルザーについての基礎的な伝記資料として幾度も版を重ね、複数の言語に翻訳されてきた。
ヴァルザーは精神を病んで文学的に沈黙して以降、スイス東部ヘリザウの病院に暮らしていたが、彼のもとを定期的に訪れていた数少ない人物のひとりが、本書の著者、カール・ゼーリヒ(1894-1962)である。さまざまな作家の支援者として知られたゼーリヒは伝記作家でもあり、彼がヘリザウを起点に、ヴァルザーと連れ立って出かけていった散策の足跡を書きとめたのが、本書なのである。
本書の記述は1936年7月、最初の散策から始まる。ヴァルザーはすでに筆を折って久しかったとはいえ、ふたりの会話のなかで示されたという文学や社会をめぐる彼の洞察はめっぽう鋭く、また、その言動はどこか、彼の作品中の登場人物を思わせる。ふたりの驚くべき健啖ぶり、健脚ぶりも見どころ。ゼーリヒが散策中に撮影したヴァルザーのスナップを口絵に収めた。
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