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自己認識については新プラトン主義やアウグスティヌスを通して多くの考察がなされ,また近現代哲学では主観性として主題化された。しかしこの中間に自己認識を扱わない長い時代があったと言われる。
自分自身に立ち帰るとは,主観性および自己認識に還帰することであり,自己認識に基づいてはじめて自分の外部のものが認識できることになる。
トマスは抽象的探究には多くの関心を示したが,個別的意識については断片的なテキストしか残さなかった。著者はその理由を明らかにするとともに,「立ち帰り」の観点から自己意識に光を当て,本格的にその意味を検討する。「立ち帰り」とは知性が自分の働きや本性を分析することであり,アリストテレスに繋がる直接的働きと,アウグスティヌスの系譜である霊魂の自己現前としての習慣的認識の二つの見方がある。トマスは両者の現実主義と内面の道を調和し独自の見地を展開する。
本書ではトマスの真理論や神学大全などのテキストにより自己認識を論じ,続編では13世紀後半の50年にわたる6人の哲学者が検討される。「直観」という偉大な考えを生んだ文化的土壌を理解するうえで彼らの自己認識論を考察することは,自然で適切な方法である。両書を通して,古代から現代に至る自己認識論のもつ射程を知ることは,今後の哲学研究に多くの刺激を与えるに違いない。
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