【本書の特徴】
本書が扱う内容は,自動車の操縦安定性(以下「操安性」)です。優れた同類書籍が出版されている中,あえて本書を執筆した理由は,読者の方々に操安性を『深く理解=学んだ内容を実務で活かせる』ようになっていただきたいとの願いからです。その際重要なことは,『問題に対して,数式を解くだけにととどまらず,解の力学的な意味まで理解する』ということです。そのための例としては,「車が不安定になるときの力学的つりあい状態」まで丁寧に説明をしている点などが特徴として挙げられます。そのレベルまで『深く理解』できていれば,問題発生時にどうすれば良いかは容易に判断できます。
次の特徴はコラムです。「式の解釈から見えてくる新しい見方」や「意外と勘違いしている人が多い内容」など,知っておいて損はないと思われることをまとめました。
本書は基礎から解説していますが,実務経験を積んだ方々にも参考になるように,できるだけ踏み込んだ解説を心がけました。第7章の「車線変更時に小さな車体横すべり角の方が良い理由」などはその例です。また,線形域での解析を主としていますが,飽き足らない読者のために,非線形解析手法も解説しており,著者らが提案している「状態速度ベクトル図法」や「等高線法」等も加えました。
【各章の概要】
第0章では,操安性の考え方の基本となる「旋回運動に必要な力の理想形」を復習し,第1章では,理論の基本となる「モデルと運動方程式」について解説。
第2章では,車両諸元から直に読み取れる「車両固有の性質を表す各種評価指標」について,第3章では,さらに運動を詳しく見るために伝達関数から導いた「車両の応答特性」を整理して,各々解説。
第4章では,各種の運動制御システムについて,操安性理論を背景に,その「狙いと具体的な制御方法,力学的な意味」を解説。
第5章以降は非線形域での話に入り,「タイヤが出す力の発生メカニズム」について解説し,第6章では,「タイヤ非線形域での車両の運動を解析する手法」について,代表的な手法の特徴と解析できる内容を解説。
第7章では,それまでに解説してきたより良い操安特性が,「ドライバの運転しやすさ」にどのように作用しているかについて解説。
【著者からのメッセージ】
本書は「操安性の全体像を俯瞰的に眺めたい」,「なぜそうなるのかの理由も知りたい」方々にも役立つ内容も盛り込みました。また,旋回運動を三つの係数で表現した「宮田の式」という,本書独自のものも入れてあります。「これから操安性を学ぼうとしている」方はもちろん,「既に担当業務で活躍している」エンジニアも含めて多くの方々に読んでいただきたいと考えています。執筆する上で著者らは「細部までできる限り,深く・詳しく解明しよう」と努力して来ました。減衰比ζが負となる振動領域を3D図で表した図3.14は,著者らの姿勢を端的に表しているものですので,ぜひご覧いただけたら幸いです。
本書を読むことで,研究開発の現場での次の一歩を,的確に見出
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