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〈ミードの思想は1900年以来、シカゴ大学での講義を通して洗練されてきた。その講義の名は広く知られ、かつ大きな影響力を持っていたあの「社会心理学」である。この講義には毎年多くの学生が出席し、その関心も心理学、社会学、言語学、教育学、博愛主義、哲学とさまざまであった。[…]ミードの考えがいかに多くの学生に衝撃を与えたかは多くの本が証言するとおりである。[…]講義をとおして出席者は自分の人生を知的なものにしようとし、意味のあるものにしようとしてきたのだった〉
(チャールズ・W・モリス「はじめに」より)
ミードによれば、精神も自我も社会的現象である。この命題を基礎にミードの講義は、進化論、身体、意識、経験、言語、普遍性、民主主義、経済、宗教、教育、共感、優越感、愛国心とあらゆるものに及び、さらに理想の社会への道を阻むものを問う。人間を人間たらしめている条件とは何か、人間社会の成立と発展の条件とは何かをめぐるミードの思索は、ほかに類をみない。
ミードは生涯その思想を著書にまとめることをしなかったが、この社会心理学講義は速記録をもとに『精神・自我・社会』としてまとめられ、日本でもいくつかの翻訳によってながく読み継がれてきた。本書はこの古典の明解で新たな翻訳である。この新訳によって読者は、ジェスチャー概念を軸に行為の身体性と社会性を一挙にとらえる独創性と、個人から出発するあらゆる思想的傾向の誤謬を乗り越える思考のダイナミズムとを、誤解なく見ることができるだろう――100年前の白熱講義に出席しているような知的興奮とともに。
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