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「アルフレッド・ウォリスの絵はなぜか忘れがたい。絵とは何か。人間にとって絵を描くとはどういうことなのか。そうした根源的な問いを突き付けてくる。その問いに答える前に、ウォリスは87年という生涯をどう生きたのか。〈船乗り〉としてどんな暮らしをしていたのか。〈芸術家〉としてどのような作品を遺したのか。〈船乗り〉であることと〈芸術家〉であることは、いったいどのように結びついていたのか。その生と芸術の細部に分け入ってみたい。」
(本文より)
アルフレッド・ウォリス(1855-1942)はイギリスのデヴォンで生まれ、9歳から船に乗り、コーンウォールの港町ペンザンスで21歳年上の未亡人と結婚、船乗りとして生計を立てるが、やがてセント・アイヴスに移り船具商を営んだ。妻の死後、70歳のウォリスは独学で絵を描きはじめる。孤独を癒すため、厚紙やボードに船舶用ペンキで描いたウォリスの絵は誰にも知られることはなかったが、1928年、セント・アイヴスを訪れた画家のベン・ニコルソンらによって見出だされた。荒海をゆく船、灯台、港など記憶のなかにある光景を描いたウォリスの素朴な絵は、アカデミックな美術教育を受けた画家たちが到底表出しえない真率さに満ち、素朴派の画家として評価が高まった。
日本では2007年に「だれも知らなかったアルフレッド・ウォリス」展(東京都庭園美術館)が開催され、ウォリスの存在が知られるようになった。本書は同展を企画した美術史家の著者が書き下ろした、日本で初めての評伝である。学芸員時代からイギリス美術を研究し、アーティスト・コロニーとして名高いセント・アイヴスを幾度となく訪れ、ウォリスとの対話を続けた著者による渾身の作家論。
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