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伝説のフォトジャーナリスト最後の3年間。20歳の時、51歳のフォトジャーナリスト、ユージン・スミスと出会ったアイリーン・美緒子・スプレイグ。二人は、チッソの工場排水が引き起こす未曾有の公害に苦しむ水俣を目指した――。取材開始から十年。近代化の傷と、再生を勝ち取った魂の闘いに迫る大河ノンフィクション。
<目次>
序 章 小さな声に導かれて
第一章 アイリーンの生い立ち
第二章 写真家ユージン・スミス
第三章 ニューヨークでの出会い
第四章 不知火の海
第五章 水俣のユージンとアイリーン第六章 写真は小さな声である
第七章 撮る者と撮られる者
終 章 魂のゆくえ
<著者より>
水俣病が工場排水を原因とする公害であると国家に認定されたのは一九六八年、環境庁が公害対策を担うために発足したのは、一九七一年のことでした。
一九六四年には東京オリンピックが、一九七〇年には大阪万博が開催されましたが、都市部が華やかな国際イベントに沸く、その同じ時代に、水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病といった、公害に苦しむ人々の闘いがありました。
公害は高度経済成長のひずみである、と、よく言われます。ですが、「ひずみ」などではなく、高度経済成長の中に公害は内包されていた、公害を黙認することなくして高度経済成長は達成されなかった、そのように私は捉えました。
高度経済成長の日本を「奇跡の時代」として捉え、過去の栄光としてのみ記憶し、そこに日本社会の理想を求める限り、過ちはまた繰り返されるのではないか。私達が望む社会はどのようなものであるべきなのか。コロナ禍の中にオリンピック開催が強行された今こそ、見つめ直したい。
執筆中も現在も、「なぜ、今、水俣病なのか。過去の話ではないか」と問われることがあるのですが、これまでのような成長を頼りとする社会を是としていくのか、未来図を描くためにも、振り向くべき過去がある、そのような思いから本書を「今」、執筆しました。
<担当編集者より>
「女帝 小池百合子」で今年大宅賞受賞された石井さんの受賞後第一作。
深刻な内容ですが、高度経済成長の日本社会を体感しながらぐいぐいと物語に引き込まれていきます。
国も企業も、人命より利益優先。コロナ禍のいま、政府による無為無策のため、国民は国から棄てられようとしているという現実。人間の命の大切さを、心から祈るような気持ちでこのテーマに取り組んだ著者の熱い思いを感じてください。
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