ヴォルフガング・パウリは、ユングとは共著を発表するほど親交の深かった人物で、ノーベル物理学賞を受賞した賢人として知られている。しかしその一方で、母親の自殺後に精神的な不調をきたし、アルコール依存の傾向が強まるなど、内面的には深刻な問題を抱えていた人物でもある。そんな危機をユングとユング派治療者の関わりによってパウリは乗り越えていくのだが、そこで大きな役割を果たしたのが、彼自身が見て記録していった夢やヴィジョンだった。本書は、1936 年から1937 年にかけてユングがパウリの夢について詳細に検討した、伝説的なセミナーの記録である。
このパウリという症例は、ユングが古代の心的状態や東洋の精神修養からヒントを得て発展させた心の全体性について教えてくれるものであり、それと同時に、古代人でも東洋人でもない現代の西洋人にとって、そもそも個性化がどのように可能なのかを示してくれた希有な例である。そこには、外界へ向かう啓蒙された知性と、内界へ向かうスピリチュアルな感性とが、一つにあいまって躍動している。
また、本書のもう一つの大きな意義は、英語で語るユングの姿が浮かび上がるほど、ユングの話し言葉がそのまま記録されている点にある。ユングの他のセミナーに比べて、本書は事後的に理論的編集がほとんど加えられていないため、ユングが心の流れに任せて語る姿が生き生きと現れている、貴重な一次資料だと言える。
よく利用するジャンルを設定できます。
「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。