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多くの人は、日常生活の中で意識せずに音声によるコミュニケーションを用いている。しかし、音声によることに困難さを持っている人もいる。本書は音声によることが出来ないあるいは困難さをもつ人々の課題からその支援技術までを解説することを目的としている。
本書の特徴の一つに、聴覚言語(音声)と視覚言語(手話)、触覚言語(指点字や触手話)を横断的に扱い、言語の原点である「対話のことば」の共通基盤特性を示している点がある。実時間性と揮発性にもかかわらず精神的負担が軽いことに注目、研究が最も進んでいる音声の知見を手掛かりに、言葉の持つ重要機能を概観する。コミュニケーション障がいの支援としての基本的視点である。
社会的存在であるヒトにとっては、社会とのコミュニケーションが必要不可欠である。そこでは特に道具を要せずに直接対話のできる音声が社会の基盤となっており、圧倒的に情報量も多い。その音声社会とのコミュニケーションが生活の質(QOL)のを確保する上で不可欠となっている。
2021年になっても収束の兆しが見えないCOVIT-19のパンデミックでは3密の防止が求められ、対話の重要性を身に染みて感じていることであろう。我が国は災害が多く、そこには手話や指点字などを用い音声と相互変換する手段や通訳を必要とする障がい者が存在する。例えば、東日本大震災では、聴覚障がい者や高齢者は、音声による津波警報を即時に聞き取ることができず、逃げ遅れ、多くの死者が出ている。避難場所や広報車での情報提供でも、支援サービスの音声によるアナウンスを聞き逃した多数の事例がある。
なお「音声障がい」という一つの障がいは存在しない。発話器官の運動機能や知覚機能、脳神経系などの障がいの結果、音声によるコミュニケーションが困難になる障がい状況の総称である。
第1章では、障がいの定義を紹介し、障がい者の「対話のことば」として求められる特性を示す。
第2章では、音声障がい全般の概要を示し、音声合成および音声認識・理解技術を概観、典型例として構音障がいに対する音声支援技術を取り上げる。
第3章では、脳・神経系など中枢系の障がいに起因する音声および手話の障がい関係の話題を取り上げる。
第4章では、聴覚障がい者が用いる手話とその記述法やDB、手話認識技術や手話CG、音声との相互変換技術、手話の通信・放送技術などを取り上げる。
第5章では、聴覚と視覚に障がいがあり、触覚のみを用いている全盲ろう者を取り上げる。さらに自然に言語を獲得することが困難な先天性全盲ろう児の教育に挑戦した記録を紹介、その分析からは定型発達児の言語獲得プロセスの手掛かりが得られることが期待されることも述べる。
第6章では、障がい当事者や支援者に目を向ける。考慮すべき事項、支援技術や評価法、支援によるQOLの評価法、2次障害、支援者の負担軽減への配慮・訓練、などの問題を取り上げる。
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