取り寄せ不可
あのときのムツさんの言葉を
もういちど心に刻みたい。
「長い間お世話になった畑が荒れ果てていくのは申し訳ない。せめて花を咲かせて、山に還したい」
この本は、埼玉県秩父市の山あいの集落、太田部楢尾をNHKが18年にわたり記録したTVドキュメンタリー『秩父山中 花のあとさき』がもととなっています。多くの人の心に深く残った小林ムツさんや楢尾の方々の言葉を、新たに解説を加えた取材シーン、18年間の取材エピーソードとともに振り返った1冊です。
【はじめに】(プロデューサー 伊藤純氏)より抜粋
「長い間お世話になった畑が荒れ果てていくのは申し訳ない。せめて花を咲かせて、山に還したい」
それからずっとふたりで、植えて、育てて、咲かせて――。
山の上からはじまった斜面の花園は年々広がっていきました。それはまるでふるさとに花を手向け、終わり支度をしているかのようでした。ふたりが心がけていたのは、いつか誰も世話をする人がいなくなっても咲く、丈夫な花を育てること。人も花も、老いて枯れるときが来ても、いのちが次に引き継がれるように……。
そうした夫婦の日々と楢尾の四季の移り変わりを、私たちは2001(平成13)年から記録してテレビドキュメンタリーとして放送し、さらにその集大成ともいえる映画『花のあとさき』を2020(令和2)年に公開しました。コロナ渦の中ではありましたが、ムツさんを愛するたくさんのみなさんに支えられ、いまも映画の上映は続いています。日本列島のどこかの映画館で、いつまでも末永くムツさんが微笑んでいてくれるとしたら、これほどありがたいことはありません。
今回、私たちは本の形で、18年続けてきた取材をまとめました。そのいちばん大きな理由は、楢尾の人たちの〝言葉〟を目に見える形でのこしたいと思ったことです。花について、森について、あるいは生きることについて、ムツさんたちがふともらす言葉は、私たちを何度もハッとさせ、考え込ませました。ですから、この本を読んでくださるみなさんは、もちろん最初から順々に読んでいただくのはうれしいですけれど、どこかをパラリと開いて、そこにある〝言葉〟を味わっていただいてもいいかもしれません。
【はじめに】
【登場人物】
【物語の舞台】
花を手向けるひと【公一さんとムツさんの終わり支度】
太田部楢尾との18年 (1)
ムツさんの花はいま
木を守るひと【武さんの信念】
太田部楢尾との18年(2)
ひとりきりの秋【愛着と寂しさと】
太田部楢尾との18年(3)
ふたりのモミジはいま
花のあとさき【ムツさんが(4)
2021年春 太田部楢尾を歩く
【おわりに】
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