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人類史上最悪の禍根、それがホロコーストです。本書に描かれていることはその一部ですが、真実を子どもの目で記録した点で非常に貴重で重要な本です。著者の一人グルエンバウム氏はアメリカ在住のユダヤ人で、第二次世界大戦当時、8歳で故郷のチェコ・プラハから連行され、テレジン強制収容所に収容されました。本書はそこから彼が15歳で解放されるまでを、共著者である作家ハサク=ロウィの協力を得て、驚くほどリアルに再現した回想記です。
ユダヤ人は、ナチスが次々と出す禁止令に驚きながらも従っていきます。ラジオや電話を取り上げられ、散歩道を歩くことさえ許されません。しかしそうやって生活を制限されても、多くのユダヤ人は「これ以上悪くなることはないだろう」と我慢を続けました。その果てに、住居を取り上げられてユダヤ人居住区(ゲットー)に押し込められ、テレジン強制収容所へ送られたのです。
子どもの目は、これらのことを「疑問」「憤り」「混乱」で捉えています。理不尽さを訴えても、大人たちは答えてはくれません。みなひたすら自分のなすべきことを懸命に行い、差別と迫害、そして死をくぐり抜けていきました。テレジンで自覚することになる生と死の境目、家畜列車でアウシュヴィッツ絶滅収容所へと送られていく家族や友人たち。そして、自分たちは……。
「生き残ったのは奇跡」と語るグルエンバウム氏は、現在90歳です。ホロコーストの実態を伝え、このような惨事がなぜ起こり、これから起こらないようにするにはどうしたらよいのか、それを考えてもらうために書いたと話しています。これまでに著された数多のホロコースト回想記をしのぐリアリティ溢れる物語が、まるで映画のように迫ってきます。ぜひ、ご一読ください。(はやし・さちこ フリーライター)
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