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〓〓この男の言うことはまるで不可解だ。
第二次世界大戦により国からの統制が厳しくなる中、病弱な青年・首藤善介は、作家を自称する男・大庭に出会う。
『ウタビトの塚』を訪ねるという大庭の口から繰り出される戦争・国家批判が、善介の「友人らの出征を見送ることしかできない」焦りを募らせる。
前作『埋もれた波濤』で人気を博した元新聞記者の著者による、綿密な取材の上で紡ぎ出される「虚構」の糸が、4つの短編として編み出される。
●本書の内容
① 「漂流船」=次々に北朝鮮から漂着する木造船の見物行と、20年前の山形県知事“笹かま疑惑”の真相が並行して語られる。黒いカネが行政を歪める事を未然に防いだ知事であったが、それが原因で世間から疑惑の目を向けられる。漂流ともいえる事態に陥った事件の真相とは。
② 「ミャンマーの放生」=民主化運動が広がる社会主義国ミャンマーを舞台に、観光客と現地人通訳が生の意味を問う物語。臨死の病気や事故の経験から、自分の生を見つめ直すことはできるのか。老・病・死の重力を緩和する“旅”という人間行為の魅力。
③ 「ボートは沈みぬ」=有名な歌謡曲“真白き富士の嶺”をめぐり、その裏で展開した人間関係を再検証する。運命に弄ばれる個性の連環と生の不条理、不公平を描こうとする探索もの。
④ 「道祖神の口笛」=戦時下の仙台市を舞台に、大学生の焦燥の日々を通して、虚構の設定が無ければ前にすすむことのできない知性の哀しさを描く青春小説。太宰治らしき謎の人物との邂逅〓〓という設定が、読み手の想像をかきたてる。
映画監督・篠原哲雄さん推薦!
「虚構性の中に真実を求める円環」
理不尽に抗するために虚構という発想が必要――という論法は、コロナ騒ぎに右往左往する現代社会をも撃つ。こうした事態も何らかの虚構なのではと思えてくる感覚に、今を感じる。
主人公をめぐる日常の人間関係の描写が淡々としながら、主人公の精神的なさすらいを描くためには、ちょうどいい配置がなされている。道祖神は冥界への使者のだ。芭蕉や西行の俳句から導き出されるヘルメスに関しての言及に面白い。
主人公に謎をかけて立ち去った男、あれは太宰治だったのではないか。そこの解読が一つの技、ギミックになっている。その意外性とともに、この小説の構成の巧みさを思わせる。「虚構性の中に真実を求める」というテーマに至る円環がこの作品の肝なんだと合点がいった訳である。
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