「あなたが教職を志した理由は何ですか?」
この問いかけは、本書が薦める「プロジェクト学習(Project Based Learning、以下PBL)」を学校で推進する役目を担う人物が、教師に投げかけたものです。教員は教壇に立つと、知識やスキルを伝達することに固執するあまり、つい生徒の学びをコントロールしてしまいがちです。PBLは、一つのプロジェクトを通して、自分の人生や社会の課題を解決するスキル、さらには社会のつくり手となるためのスキルを身につけるための、教師と生徒が共につくる学びの文化です。
本書では、PBLの具体的な進め方はもちろん、生徒一人ひとりをいかした学びを実現するための「質の高いPBL」について、数多くの詳細な実践例をもとに紹介しています。
さらに注目すべき点は、PBLが「教育の公平性を実現するためのツール」としての役割を果たすという信念に基づいていることです。そして、教育の公平性に関する信念は、PBLにかかわる多様な生徒同士の関係性だけでなく、教師と生徒との関係性においても貫かれています。
本書に登場する教師たちは、プロジェクトの設計段階から生徒や専門家の意見を積極的に取り入れます。計画段階では、生徒一人ひとりの違いをいかせるような豊富な足場(支援)が用意されています。さらに評価については、評価基準を生徒と一緒につくることもあります。このように、教室にいる教師と生徒が互いの公平性を保ちながら、プロジェクトを通してつくる文化がPBLの学びを最大限に引き出すのです。
PBLは教師と生徒という関係性を越えて、社会のつくり手として共に学ぶことの楽しさと大切さに気づかせてくれます。本書を通じて、教師としての自分が生徒とどんな学びの文化をつくりたいのか、そのためにできることは何かを考えさせられることでしょう。(協力者 井久保大介)
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