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◆異貌の多面体
秋炊ぐ聖書に瓦斯の火がおよぶ
(『蛇』所収)
第一句集『蛇』の第一部「学問」の章に置かれた一句。この章は戦争中の昭和十九年から二十三年までの作を収めてある。大正十四年生れの赤尾兜子は満年齢が、昭和の年数と一緒なので、この句は兜子が二十歳前後の作。京都大学文学部中国文学科に入学した頃か。
兜子の年譜には特にキリスト教や聖書に興味を抱いたという記述はないので、これは教養を深めるための読書として、聖書を読んでいたのだろうか。煮炊きを待つ間に、聖書を読む学生。ガスの火の青さが青年の知への欲求を照らし出しているようだ。
(本文より)
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赤尾兜子の俳句は異貌である。百句鑑賞執筆のためにあらためて兜子俳句を精読して、かねてから思っていたその認識は、いっそう強いものとなった。昭和三十年代、赤尾兜子の名が俳壇で知られ始める時期の俳句は、第一句集『蛇』と第二句集『虚像』に収められているが、このころの兜子の作品は伝統派の俳人はもちろん、同志であった前衛派の俳人の誰とも似ていない。前衛俳句とレッテルを貼ろうとしても、兜子の作品はそこから大きくはみ出している。それは兜子俳句としか名づけようがない異様なオリジナリティに満ちている。
この本の百句鑑賞では、あえて、編年体をとらず、まず、その異貌が感受できる兜子秀句三十三句を第一部として置き、第二部に『稚年記』から『玄玄』までの作品から六十七句を編年順に並べて鑑賞した。
(解説より)
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