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1925、6年頃にde Broglie及びSchrodingerの波動力学とHeisenberg等の量子力学とが殆ど同時にでき上がり、それらの見かけ上の大きな違いにも拘わらず形式的に同等であることが明らかになった。そしてBornに始まる量子力学の統計的解釈が、1927、8年頃にはHeisenbergの不確定性原理やBohrの相補性の考えが根幹となって一応物理学者にとって満足すべき理論体系ができ上がった。しかし、それはまだ数学者を満足させる程まで理論的な厳密さをもって築き上げられた体系ではなかった。特にDiracのデルタ函数を使う方法は、物理的な直観によって本質的に正しいことが分かってみても、数学的にはそのまま受け入れにくかった。
このような不満足な状態を是正するために、Neumannはそれまで物理学者には縁の遠かったHilbert空間の理論を基礎におくことによって、理論的に一貫し、数学者にも受け入れられる形に量子力学を再構成することに成功した。今日では、量子力学系に対する直感的な像を描くためにも、Hilbert空間はなくてはならぬ背景にさえなってしまった。それはNewton力学の背景である三次元Euclid空間や、Einsteinの相対論の背景である四次元空間にも比すべきものである。しかし、Hilbert空間が通常の三次元ないし四次元空間と本質的に違うのは、それが量子力学系に対する観測と直接結びついている点である。実際Neumannは本書において、量子力学の数学的な基礎をあきらかにしたばかりではなく、観測の問題の精密な分析をも行い、更に進んで量子統計力学の再構成までも試みた。
それ等いろいろな理由によって、本書は歴史的に重要な意義を持っているばかりでなく、今日でも理論物理学を学ぶものが一度は熟読しなければならない書物である。
(湯川秀樹)
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