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父の事業の失敗で、小学校入学を前に孝の一家は、雲仙・普賢岳の麓(ふもと)の有明海に面した城下街・島原に引っ越し、島原城のそばで新しい生活が始まった。
一六二四年の築城時以来開かれてきた初市に毎年サーカスがやってきた。孝の家のそばの「サーカス小屋」に団員が寝泊まりし、家の前の広場は、象や、ライオンなどで動物園に早変わり。
隣の同級生・則秋と孝は、サーカスの少女・雪子と仲良しになる。毎日のように初市を見にいったり、城のお堀に魚釣りに行ったり、則秋の祖父、梅三じいさんからいろんな話を聞いたりして、孝の心も、少女の心も大きく広がっていく。
ところが、一ヶ月後に小学校入学でありながら、両親の仕事の都合で雪子は学校に通えないかもしれないと打ち明ける。孝は、一年前の自分の境遇を思い出し、雪子に何とかしてやりたくなった。
学校に連れて行き、自分の席に座らせ、授業のまねをして、雪子の名前の書き方も教えてやる。
しかし、十日間の初市は終わりに近付いた。雪子は、祖父の形見である犬のぬいぐるみを残して次の興行の地へと旅立っていった。
豊かな自然と、心の温かい人に支えられて、育まれる幼い子どもたちの純粋な心を描いた自伝的小説。小学生から大人まで心洗われる秀作。
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