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■日本の医療・介護は、度重なる制度改正や高齢化などによって変わり続けていますが、その本質や、変化の大きな流れを、本書では(1)専門分化、(2)事業化、(3)公平化という3つのベクトルからとらえ、これからを展望します。
■第1のベクトルは「専門分化」です。医師の指示によって患者の入退院から薬の内容まで決まりますので、まず医師の置かれた立場を理解するのが不可欠です。医師には患者を治すという使命感がありますが、医学の膨大な知識を全部修得できませんので、専門分野に特化するベクトルが働き、それを測る指標は専門医制度の完成度です。
第2のベクトルは「事業化」です。医療は医師の診療だけでは成り立たず、医療機関は「事業体」としてヒト・モノ・カネを確保し、事業計画に従って事業を展開する必要がありますし、配分沿って費用を支出し、収益を確保する必要があります。そのためには医療機関の経営が、医師の家計や政府の予算から独立している必要があり、独立の程度によって、「事業化」のベクトルを測れます。
第3のベクトルは「公平化」で、だれでも、どこでも、いつでも受診できる体制を構築し、維持することです。医療は命が関わりますので、患者は「身の丈にあった」医療ではなく、最善の医療を借金してでも受けようとします。そのため世帯が貧困になる大きな理由は医療費にあります。したがって、医療費によって貧困にならない体制の達成度によって「公平化」のベクトルを測れます。
■この3つのベクトルの強弱は国によって異なり、例えば日本は「公平化」のベクトルが強く、患者はどこの医療機関でも受診でき、負担する金額は支払える範囲に留まっていますが、「専門分化」と「事業化」は弱いです。これに対してアメリカは「専門分化」と「事業化」が強く、お金があれば最高の医療を受けられますが、「公平化」は弱く、医療費が個人の破産する大きな要因になっています。
新型コロナに対する初期対応を例にとると、まず「専門分化」が働いて感染症や集中治療の専門医の必要性が認識されました。次に、医療機関の「事業化」を支援するため、復職支援等で医師・看護師等のヒト、マスク等の個人防護具の調達でモノ、診療報酬の引き上げや交付金でカネをそれぞれ確保する支援が行われました。一方、「公平化」は基本的に維持され、患者の所得階層や年齢によるアクセスの制限は課題になりませんでした。
■著者は複雑な日本の医療・介護制度についてわかりやすく解説し、医療関係者だけでなく、経済学など他分野の専門家や行政の担当者からも高く評価されてきました第一人者です。
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