桜花を夢見て

桜花を夢見て

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出版社
てらいんく
著者名
かわな静
価格
1,540円(本体1,400円+税)
発行年月
2021年4月
判型
B6
ISBN
9784862611659

満州はこれから発展する――。
そう信じて、スミ子と家族は海の向こうへわたった。
昭和のはじめ、異国の地ですごした少女時代の記憶。

昭和2年、警察官となった父について、鹿児島から満州に渡った少女・スミ子の物語。
2歳から過ごした満州の地で、スミ子はたくさんのことを経験した。
多国籍な街での暮らし、柳条湖事件で近づいた戦争の足音、日本人学校での日常、親元を離れての寮生活、ひとり旅であじわった恐怖、紀元2600年の祝賀式での大役、迫撃砲をうけた父の負傷、そして、社会人に……。
「これから発展する」といわれていた時代の満州で、多感な時期を過ごした少女の暮らしをていねいに描く。


*  *  *
 ハルピンの生活で、スミ子は、新しい発見をしました。
 ハルピンでは、あちこちで、音楽が流れています。小さな楽器を鳴らしているだけではなく、明るい色の服装をした青年や女の人が、歌ったり、おどったりしているのです。それは、毎日、あちこちで、見かけました。 
 特別におどろいたことは、五、六人の少年たちがやってくると、そのうちのひとりが、ポケットからハーモニカを出し、とびはねたいようなかろやかな音楽を流します。すると、ほかの少年たちは、待っていましたと言わんばかりに、そろっておどりだします。それは、コサックダンスだそうです。
 街の通りや広場で歌ったりおどったりするのは、南の遼陽では見かけませんでした。遼陽はハルピンより暖かく、明るい街ですけれど、ハルピンは、音楽のあふれる、にぎやかな街です。
 スミ子のアパートは、ハルピンでもいちばん多くロシア人の住んでいる街でした。アパートの窓からは、ロシア人の店先などが見えました。
 ロシア人は、黒パンを買いにきました。パン屋さんの店が、スミ子のアパートからよく見えました。
「黒パンを食べたい」と、スミ子は、せがみました。
 日曜日になると、大勢のロシア人が黒パンを買いにくるのです。ロシア人は、まとめ買いをしていました。
「わたしたちも、日曜日には、黒パンを食べましょうか」
と、お母さんが賛成してくれました。
 黒パンは、焼き立ては、やわらかくてほのかにあまいパンでした。
「黒パンには、カルパスだよ」
 お父さんと、パンを買いにいくと、カルパスというソーセージも買いました。
 カルパスには、ハチミツをつけて食べるのが、ロシア人のしきたりでしたので、吉田家でも、同じようにして食べました。
 キタイスカヤ街の生活は、スミ子はとても気に入っていました。
(「音楽のあふれる街」より)
*  *  *

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