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日本の教育学の泰斗として知られる著者が、学生時代から一貫して取り組んできた「自己意識論」を集大成としてまとめた論集の最終第5巻。
人は他人との比較において、ともすると誰もが同じ共通の世界で同じように生きている、と考えてしまう。しかし、一人ひとりの見ているもの、一人ひとりにとっての「現実」は、全く異なったものである。自分にとっての「当たり前」が他人にとっては「当たり前」でなかったり、自分にとっての「現実」が他人にとっては「現実」でなかったり、ということは日常茶飯事であり、当然至極のことである。
一人ひとりが一人きりで生まれ、毎日の生活を通じて自分だけの体験を積み重ねていき、その人に特有の感性やこだわりを形作っていく。類似した「現実」を持っているように見える場合であっても、その内実は一人ひとりで全く異なってくる。こうした個々人の持つ「現実」の根本的相違を重いものとして受け止めるかどうかが、真の人間理解を進めていくうえでのポイントである。
第5巻では、一人ひとりが個別に持つ内面世界について考察し、共同幻想にふりまわされることなく、人間理解を深め、いかに自分の「現実」を生きるかを説く。
また、『徒然草』や千利休、聖徳太子、親鸞ら先人の教えをひもときながら、内面世界を豊かに育て整えるためのヒントを呈示する。
【発刊の辞】
自己意識の問題は、アイデンティティ、自己概念、自己イメージ、自尊感情、等々の形で論じられ、現代の心理学・社会学・教育学等において、最も重要な課題の一つとされてきました。個々人の言動の土台になるだけでなく、生き方の問題、さらには社会や文化の組織と機能にまでかかわってくるのが、自己意識の問題だからです。「人間の人間たるゆえんを解明するポイントは自己意識にあり」ということになるのではないでしょうか。従来はアメリカやヨーロッパでの研究が多かったのですが、現在においては日本の若手・中堅の研究者の間でも、非常にポピュラーな研究課題の一つとなっています。
私自身は、一九六〇年の京都大学文学部入学以来、今日まで一貫してこの領域の問題に取り組んできており、一九七一年に京都大学から授与された文学博士号も「自己意識の社会心理学的研究」というものでした。私の研究はその後、教育に関する諸問題などにも拡がっていますが、その際の大事な理論的枠組みにも自己意識の問題が大きくかかわっています。私の周辺の現役研究者にも、私の積み重ねてきた自己意識にかかわる仕事を一つの踏み台としてくれている人が少なくありません。
この論集は、私自身のこれまでの自己意識論に関する5冊の単行本を柱としながら、最近の論文等でこれを補い、新しいまとまった形で世に問おうというものです。
梶田叡一
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