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1968年という年はW.R.ビオンにとって人生の一つの節目といえる。本書は、ビオンが英国から米国へ移住したその夏に行ったブエノスアイレスでのセミナーシリーズの記録である。
本書の構成は、講義形式のセミナー、ケースプレゼンテーション、スーパーヴィジョンの3部となっている。
貴重なビオン自身によるケースプレゼンテーションが収録されている点は、本書の最大の特徴であり、ビオンのなまの臨床を読者は目の当たりにするであろう。また詳細なスーパーヴィジョンの記録によっても、ビオンの臨床姿勢を存分に味わうことができる。
講義形式の語りの中では逆転移、投影同一化など分析家に広く馴染みのある概念から、コンテイナー/コンテインド理論、グリッド、「記憶なく欲望なく」などのビオン独自の概念までがわかりやすく解説されている。
難解と言われるビオンの多くの著作に比して、本書の中の彼は、聞き手を前にして自身の言葉がわかりやすく届くよう心を配っているように感じられる。セミナー参加者とビオンとの豊富な質疑応答も、読者がビオンの概念をより深く理解するために役立つだろう。
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