20世紀始め,現実の具体的な経験の分析をとおして「普遍学」を目指したフッサールに端を発し,現在にいたるまで広い影響力を及ぼし続けている現象学運動。本書は地域,文化,分野を越境しながらダイナミックに展開する「新たな現象学」の生成過程と可能性を考察する四名の研究である。
池田論文 アメリカでは論理・科学・合理性を特徴とする分析哲学が主流で,その反面でハイデガー哲学は無視されてきた。しかし,ローティとカヴェルは,アメリカ哲学の真髄を「プラグマティズム」とエマソン,ソローの「アメリカ源流思想」に見て,ハイデガー哲学の内にアメリカ哲学との親和性を見出す。
合田論文 日常の経験や生活のリズム,体内のリズムなど生存を可能にし,維持しているリズム。「リズム」の観点からベルクソンとハイデガーのテクストを,多様な分野のテクストと触発させながら読み直し,新たな側面に光を当てる。
志野論文 日本,中国,台湾における現象学の受容を概観し,さらに日本統治下の二人の台湾人哲学研究者,洪耀勲,曾天従のテクストの読解を通して,ハイデガー哲学や日本の哲学を踏まえながら形成した独自の「台湾哲学」の軌跡を辿る。
美濃部論文 自我に根拠をもつ知の立場から,知を存在の現象とする立場へ転回した後,フィヒテが行った講義『1804年の知識学』第二部「現象論」を丹念に読み解く。フッサール現象学以前における「現象」概念が明らかにされる。
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