本書は,野生生物の分布や個体数,種の多様性の統計推測について解説した教科書である。野生生物の分布や個体数,種の多様性を定量的に把握することは難しい。野外調査では生息する種を常に観測できるとは限らず,「見落とし」が生じてしまう場合があるからである。本書ではこうした野生生物の「不完全な検出」に対処する統計モデリングとして,生態学的な過程と観測の過程の両方を明示的に考慮した「階層モデル」を用いたアプローチについて包括的に解説する。既訳本『BUGSで学ぶ階層モデリング入門』とは相補的な位置づけにあり,既訳本では個体標識を要する捕獲再捕獲法に対応するモデルの解説がメインであるのに対し,本書は個体標識を要しない観測法に対応するモデルの説明に力点が置かれている。生態系管理などの実務上有用なモデルが,この2冊によって幅広くカバーされる。
また,本書は統計モデリングの実践的な解説書でもあり,確率過程と統計モデルを深く理解するためのアプローチとして,確率シミュレーションの重要性が強調されている。この視点は,初学者が統計的データ解析の基本概念を理解する助けとなるだろう。実データによる多くの例題が含まれており,RやBUGSなどのフリーソフトを用いて実行するためのデータやコードも利用しやすい形(Rパッケージ)で提供されている。
原著:Applied Hierarchical Modeling in Ecology: Analysis of distribution, abundance and species richness in R and BUGS: Volume 1:Prelude and Static Models, 2015.
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