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本書の対象地域である神奈川県X団地は県内最大の公営住宅もあることから、1980年代からとくにインドシナ難民受け入れを契機として、中国残留孤児の帰国者、南米日系人などの多くの外国籍住民が集住している。オールドカマーの在日コリアンの受入れから始まった「多文化共生」の文脈と比較して、本対象地域では1980年代から始まる中国帰国者やインドシナ難民の受け入れなど、行政や学校による「多文化共生」政策や取り組みの影響が大きい地域といえる。そこで、本書では地域社会で外国人住民をどのように受け入れるのかを考察し、それを可能にする諸条件を導き出すことを目的としている。
本研究では、同地区に住む18歳以上の外国籍住民全員に対して実施した有効回収票139票(有効回収率11.7%)のアンケート調査および同地域の外国人住民25名を対象としたインタビュー調査を行った。アンケート調査では、本地域に定住/移動する理由を、就労、家族、子どもの教育、住みやすさをおもな指標として尋ねた。インタビュー調査では外国人住民の生活戦術において移動経験を中心にライフストーリーを聞き取った。このほか、団地内の学校、自治会の役員、NPO団体などへもインタビューを行い、これらのデータにもとづき、外国人住民の定住意識、移住経験と母国とのネットワーク、子どもの教育、地域活動への参画、健康や医療サービスの利用といった総合的な分析を行った。
本書のなかでは、子どもの教育や、年齢が高いグループの定住志向が目立っている一方で、母国とのネットワークや規範意識を依拠するトランスナショナルな要因を取り上げ、移民の定住意識が経済的・就労的要因により決定されるという従来の仮説への新たな視点を提示している。ニューカマー外国人の高齢化も進行するなかで、就労以外の領域での定住意識も浮き彫りにすることで、「多文化共生」の現在を問う。
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