イタリア美術叢書 アルストピア・シリーズの第Ⅳ巻となる本書は、一六世紀末から一八世紀前半、いわゆるバロック期(後期バロックを含む)のイタリア美術の特徴について、六つの章を通して論じるものである。作家・作品に関する記述を基点/起点としつつも、狭義の様式論・図像解釈にはとどまらず、むしろ作品の制作ないし流通の文化・社会的背景に意を払い、各々の章の執筆を進めたが、首尾はいかがであったろうか。示された論点や事実は、どのように呼応し、また交差しえたのであろうか。
バロック期のイタリアを構成する各宮廷では、婚礼の豪華な祝祭が催され、寓意的な絵画や彫刻で飾られた仮設の凱旋門がたちならぶなか、花嫁をのせた豪華な六頭立ての馬車が街中を行進し、宮廷ではバレエ形式の槍試合が催され、市中の劇場ではオペラが上演され、広場の噴水にはワインが仕込まれて、貴族も民衆も酔いしれた。カトリック教会の壮麗もまたその極に達していた。西欧の半ばはプロテスタントの勢力下とはいえ、いまだローマには各地から巡礼が集い、二五年ごとの「聖年」が盛大に祝われ、教皇の即位行列が街を練り歩き、外交上のライヴァルであるスペインとフランスの大使はそれぞれの出資で豪華な花火を催したりする時代であった。
バロックは反古典主義であり、反マニエリスムであり、対抗宗教改革のプロパガンダ手段であり、そこでは光と闇が支配している。バロックはまた、建築と都市によって主導され、「劇場としての世界」であり、宮廷も教会の典礼も祝祭行列もすべて演劇であり、そして背景となる絵画や彫刻、建築はすべて舞台美術ということができる。この定義はまさに時代をオペラの世紀とした。本書もまた一篇のバロック・オペラである。夢か現か幻か、天空に飛翔する様式の示す諸相を、作品とその作者や注文主がたどったさまざまな運命を、光と闇を書割に演じられるこの壮麗な六幕の舞台を通して味わうことができるであろう。
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