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本書は,システム制御を研究あるいは学習する人のために複素関数や関数解析の基本を記述することを目的として,システム制御から派生する例題や演習問題をなるべく多く含め,以下の構成で解説した。
まず1章では,以降の章を読むために必要な集合と関数の基礎概念を述べている。この章については初読時には概念をおおまかに理解することで差し支えない。
さて,システム制御の分野には伝達関数をはじめとして複素関数を応用した結果が数多くある。2章では,複素数と複素関数を,3章では曲線と線積分を説明する。
次に,正則関数は微分可能な実数関数とは大いに異なる性質をもっているが,コーシーの定理によって正則関数のさまざまな基本性質を説明することができる。4章では,コーシーの定理と級数展開について説明する。
5章では,ローラン級数を用いて孤立特異点を分類し,その性質を明らかにする。特に極に関しては,留数という概念を用いて複素関数の閉曲線での線積分との関係を明らかにする。
6章では,調和関数や正則関数のさまざまな性質をポアソン積分を用いて説明する。
フーリエ級数・変換とラプラス変換は,特にシステム制御の分野では伝達関数などのシステム表現やゲイン解析や安定性解析などに用いられ,信号を時間領域と周波数領域という二つの領域から考えることによって理論および計算の双方から基本的な役割を果たしている。7章では,フーリエ級数・変換とラプラス変換の数学的な性質を中心に説明する。
8章,9章では,制御システムの解析ならびに設計問題に広く利用されているヒルベルト空間,ヒルベルト空間上の線形作用素について説明する。さらに,システム制御において,ヒルベルト空間ではないバナッハ空間を用いることが自然な問題設定も多い。そこで10章,11章,12章ではバナッハ空間,バナッハ空間上の線形作用素,バナッハ環について説明する。8章から12章までは関数解析についてであり,大学院過程の講義や研究論文を理解するときに活用していただきたい。
また,付録A では位相空間と順序集合について補足的に述べている。やや抽象性が高いが,10.5 節,12.2.2 項を読むときに参考にしてほしい。本文中随所に現れる畳み込みについては付録B で説明している。
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