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この男のお縄には、深い優しさが染みている
今日から月番で北町奉行所に出仕している定町廻り同心の夏木慎吾に早くも殺しの報せが届いた。
首を絞められた痕のある亡骸が大川に上がったと、下っ引きの伝吉が言うのだ。
急ぎ永代橋の袂まで奔り、亡骸を検めると、水草がへばりついた蝋色のその顔は、慎吾もよく見知っている油問屋西原屋四八郎の長男清太郎ではないか――。
突然の悲報に駆けつけた紙問屋三徳屋庄兵衛の娘お百合は、清太郎の亡骸にしがみつくと、顔に頬をすり寄せて、嗚咽した。そばで歯を食いしばっている四八郎によれば、ふたりは三日前に祝言を挙げるはずだったが、五日前に家を出たまま祝言前日になっても帰宅しない清太郎をみなで捜していたという。
周りが胸を痛めて遺族を見守るなか、ふいにお百合が訴えた。
「お役人様、あたし、下手人を知っています」
思わぬ言葉に、慎吾と岡っ引きの五六蔵は顔を見合わせた。なんでも、お百合は以前から不審な男に付きまとわれていたらしい。とすると、お百合を想うあまり、その男が邪魔な清太郎を殺したのだろうか。まずは女医の国元華山に検屍してもらった慎吾だったが……。
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