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「恋するわたしは狂っている。そう言えるわたしは狂っていない。わたしは自分のイメージを二分しているのだ。自分の眼にわたしは気のふれたものと映る(わたしは自分の錯乱のなんたるかを識っている)のだが、他人の眼にはただ変っているだけと映るだろう。わたしが自分の狂気をいたって正気に物語っているからだ。わたしはたえずこの狂気を意識し、それについてのディスクールを維持しつづけている」
恋愛の諸相を分析し、その内的宇宙を開示するのに、ロラン・バルトほどの適任者はいないであろう。この著作は、恋する主体に扮した「わたし」の体験をはじめ、友人との会話、『若きウェルテルの悩み』、ニーチェ、ラカン、禅など、さまざまなテクストを自在に引用、あるいはそっと潜ませて展開されている。不在、共苦、肉体、沈黙、夜など、バルトならではの断章形式によって「非連続の書物、いくぶんかはラブストーリーに異議を申し立てる書物」となった本書は、刊行直後から今に至るまで、世界中で多くの読者を惹きつけている。いつでも、いつまでも読んでいたい本である。
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