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北摂の村で暮らす村人の家族や男女に、次々襲い掛かる不思議な運命と愛の悲劇を、赤裸々に書いた感動の長編小説。
兄が愛した女性“サキ”は家系のため結婚できず死を選んだ。やがて兄も死を選び、遺言に「嫁と弟の結婚を望む」と残した。弟の喜一と兄嫁の秀子は愛し合うが、「新種の米作り」研究一筋の喜一の成功を秀子は待ち続けた……。
苦節20有余年。遂に新種が誕生……
「本文より抜粋」
★人間が生きるということはどういうことなのか。人とかかわって生まれる因縁を、新たにかかわる別の人間に残していく。それは正の因縁もあれば負の因縁もある……。
★今の咲は、自殺したサキか、殺したサキの胎の子の生まれ変わりか、それとも神婆ぁか、そのいずれかの傀儡のように思えてならない。
★サキの父親の清一や母の登世の霊気が、罵り、闘い、絡みながら、いまなおそこに棲んでいるような凄惨ささえ感じる。
★「ここが、向こう背の崖?」
「そうだ、ここが向こう背の崖だ……。サキの父親の清一とお袋が連れ立って死んだ所だ。どっちがここを選んだのかは分からない。とにかくこの崖から跳んで、二人は死んでいた。
「お袋が、ここから清一を突き落として、自分も跳び込んだのではないかと思っとる。それしか清算の方法が思いつかなかったのだろう。いや、思いつかなかったというよりも、それしかなかった」
秀子に、母親が酒に酔った清一という男ともつれ合いながら、女の声音で騙し騙し、この崖淵まで重い足を運んだ姿が目に浮かんできた。
悪気漂うこの淵に立って、恐怖に躊躇い、佇んで女の性を思い、運命を呪い、罪と因縁を清算するにはこれしかないと決心し、家族の顔を思い出しながら自分を納得させ、絞り出したわずかな力で闇の空間へ男を突き落とし、自らも二度と戻れない闇の中へ跳んだ成り行きまで想像した。
★そして、サキはあの松の枝で首を吊った。池で死んだのは胎の子だ。何と、哀れな……
運命に弄ばれて、闇から闇に葬られた哀れな命だと思った。サキもまた哀れでしかない。
★誰もが生まれながらの分と運命を背負っている、と言えば気取りを感じるかも知れない。
★人間には、気が付かず、思慮が及ばず、知らず知らずのうちに積み重ねてしまう因縁の世界がある。すべてを燃やし尽くして過去の因縁を断ち切った。そして新たに山田家の再興を期したのに、また別の因縁が生まれているのかもしれなかった。喜一の脳裏には、初代岳大夫や二代目岳大夫、そして登世や清一、武夫やサキが、目に見えない糸でつながって巡るのだった。
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