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◎将軍塚の地鳴りを天変地異の予兆として怯えた京都人――
コロナ禍で猖獗を極める令和でも鳴動したのだろうか?
明智光秀の首塚、西方浄土への入口・六波羅、
魔境と化した羅城門、安倍晴明と魔界をつなぐ一条戻橋……。
1200年もの歴史を有する京都には「裏の貌」と呼べるべき痕跡が至る所にあり、
とくに神社や古寺は時代を超えて「現世」と「異界」のつながりを感じやすい。
「怨霊と御霊」「殺戮と鎮魂」「葬地と聖地」……
<本書で紹介する古寺社の例>
【怨霊鎮魂】史上最強の怨霊を鎮める「白峯神宮」
【天変地異】敗者の霊を鎮め疫病を祓う「御霊神社」
【地鳴り】異変を予言して鳴動する「将軍塚」
【冥 府】冥界への通路が潜む「六道珍皇寺」
【首 塚】二つの怨霊を封じ込めた「明智光秀の首塚」
【丑 の 刻】京都の深層に宿る鬼女の怨念「貴船神社と鉄輪井」
【酒呑童子】鬼の首を埋めて化外の民を退ける「首塚大明神」
etc.
千年の都、雅びやかな王朝文化の粋、由緒ある古社寺の街、風情ある古都の町並み、奥ゆかしい……。
「京都」への賛辞は、あげてゆけばきりがない。
だが、美女の横顔に浮かぶ憂え気な表情のごとく、古都の華やかさの背後には、暗い影も見え隠れする。
たとえば、京都の夏の風物詩といえば八坂神社の祇園祭だが、この賑々しい祭礼は、平安貴族たちを苦しめる怨霊を鎮めるために、また都人をつぎつぎに死に追いやる疫病をもたらす疫神を払い送るために行われた祭祀に由来している。祇園祭の根底には、京都の人々が抱いた恐怖と不安があった。
また、京都市街の中心部から北へ十キロも行けば、そこは老杉が鬱蒼と生い茂る鞍馬の山の中である。深山に建つ鞍馬寺は京都北方の守護神として信仰される毘沙門天を本尊とするが、奥の院には天狗の神格化ともいうべき「魔王尊」が奉安されている。その魔王殿から不動堂付近にかけて広がる僧正が谷は杉の大樹が林立し、昼なおほの暗く、中世には天狗が出没する魔界・魔境とみなされた。幼き日の源義経すなわち牛若丸が鞍馬天狗と出会って武芸を教わった場所というのは、ここだと伝えられている。
平安京の内裏に住まう天皇が光の帝王だったとすれば、その背後にあたる空間に蟠踞する天狗の総帥は、さしずめ闇の帝王といったところだろうか。
ところが、平安京というなんともうららかな名称とは裏腹に、その暗部には天狗や鬼や幽霊跋扈する魔界・異界を宿してきた。また、長らく都が置かれていただけに権力をめぐる陰惨な争いにまつわる悲話にはことかかない。
そして、往々にしてそうした異界や歴史の闇との接点となったのが神社であり、寺院であり、また逆に接点となった場所が神社や寺院へと発展していった例もめずらしくない。
見落とされがちな、あるいは忘れ去られてしまった京都の「異界」「闇」を、土地の記憶を深く濃くとどめる寺院や神社を切り口にして探訪してみよう。――これが本書の趣旨である。
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