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『播磨国風土記』は、和銅六年(七一三)の官命を受けて編纂された、全一巻の地誌である。編纂にかかわった人物としては、同五年(七一二)七月時点で播磨国大目であった楽浪(高丘)河内などが候補にあげられるが、詳細は不明である。『常陸国風土記』と同様、霊亀元(七一五)年ごろまで続いた郡里制による地名表記を採用しているので、官命が出てからほどなくしてまとめられたものであることが知られる。
この風土記は、現存する五風土記のなかではもっとも遅れて世に出たもので、寛政八年(一七九六)に柳原紀光が、嘉永五年(一八五二)に谷森善臣が、それぞれ三條西家所蔵の秘本(現天理大学附属天理図書館蔵、国宝)の書写を許可され、世に知られるようになった。
三條西家本は、現存するすべての伝本の祖本として貴重であるが、惜しむらくは、巻首の部分(総記と明石郡と賀古郡の冒頭)を缺いており、残る賀古(冒頭一部缺)・餝磨・揖保・讃容・宍禾・神前・託賀・賀毛・美嚢九郡の記事が、この順で記されている。『釈日本紀』巻八の引く逸文から、冒頭の缺損部分に明石郡の記載が存在したことはわかるが、赤穂郡の記事の存否については不明である。土地の肥沃の度合いや地名の由来を詳しく書くのがこの風土記の特色で、官命で要求された項目を比較的忠実に記載しているが、一部に未定稿のような記述があり、はたして現存本が政府に提出されたものかどうか疑わしい点もある。
本書は、こうした『播磨国風土記』を題材に、筆者が折にふれた執筆した論文十一篇を収録したものである。歴史的な事象を取り上げた研究が大半を占めるので、「史的研究」という書名を択んだ次第である。
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