ヒトはその進化の過程において、家族や血族およびそれを超えた集団との「つながり」を育み、独自の社会を築くことで他の生物との差異を獲得し、行動範囲を拡げて数を増やしてきました。人類がここまで地球上の広い範囲に住めるようになったのは、「つながり」をつくってきたからに他なりません。
ところが近年では、家族だけを大切にし、親類づきあいや近所づきあいもあまりせず、コミュニティとの関係をほとんどもたずに暮らす人が多くなっています。また、友人も恋人もほしくない、結婚しない、家族をつくろうとしない人も増え、これについて肯定的な意見も多く耳にするようになりました。さらには若者を中心に、友人がいる人のなかでも、SNSやインターネット上でのバーチャルな「つながり」はあるものの、現実に会って会話をしたり、時間と空間を共有して何かをすることが少なくなってきている傾向があります。
しかし、そうした気運の一方で、誰にも看取られずに孤独死してしまう方がたくさんおられることや、頻発する自然災害への対応にはコミュニティの存在が不可欠なことを思えば、人間にとってリアルな「つながり」の重要性は不変です。それは人と人との接触の削減が求められるコロナ禍においても同様です。むしろ人と会えない時期のつらさは、「つながり」が人類にとってなくてはならないものであることをより強く浮かび上がらせました。
本書では、血縁・地縁・信仰縁・嗜好縁など、世界各地の民族や集団の多様な「つながり」の歴史と現在について、霊長類学、民族学、文化人類学の視点から比較・考察。共通点と差異を観察し、歴史的な変化の状況を踏まえて、コロナ禍を乗り越えて世界の人びとが安全かつ豊かに生きる方途を探ります。
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