武器としての「理科」への誘い
意外なことだが、日本の生物学教科書には「ヒト」がいない。高校生物の学習指導要領には、生命の根源的な活動といえる生殖や病気の予防・治療という観点がそもそもない。このため、大腸菌やハエの突然変異といった基礎生物学的内容はしっかり押さえているが、ヒトの生殖活動や感染症に関する記述はほとんど皆無である。
これに対して、オランダの中学生物教科書である本書には「ヒト」が溢れている。
サルモネラ菌による食中毒からメタボリック・シンドローム、アルコール中毒まで、文字通り、ヒトが生きていくための生物学がオールカラーの図版とともに露骨なまでに展開されている。
特に重要なのは、生殖に関する部分だ。月経の仕組み、射精から受精までの経過、妊娠のメカニズムや妊娠判定の様子、さらに避妊方法を綺麗な図や写真を使って紹介している。
コロナ禍の下、十代の妊娠相談が相次いでいる。背景にあるのは「ヒトの生物学」の不在だ。本書には感染症から薬物依存に至るまで、十代が自分をいかに守るか、その術がシンプルに語られる。コロナ時代を生き抜く武器としての「理科」への誘い!
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