量子機械学習は,量子力学に基づく計算手法という新しい概念と,近年隆盛をむかえる機械学習の両者が相まって非常に興奮を覚える新しい分野に感じられる。しかしその基礎を押さえた書籍は意外なことに少ない。研究内容を紹介するような文献はいくつか見られるものの,両者の初学者が手にとり,そしてお互いの分野を知り,橋渡しをするような本当に求められている人材を育成するような教科書になる文献は存在しなかった。
本書は,機械学習の概観を知り,しかし優しい言葉でわかったような気になるのではなく,量子機械学習の枠組みに昇華させるために必要な数学的な要素や用語を押さえて,後で納得感が得られる伏線がしっかりと張られた心地よい構成になっている。量子力学の説明にしても,従来の教科書の記述が冗長であると喝破して,必要最小限の記述で,直接的に量子コンピュータ,量子機械学習へのガイドとなっているところは,急速に進化するこの分野における教科書としての位置付けが明確である証左とも言える。いわゆるゲート式,アニーリング式のどちらに偏ることもなく,これまでの研究で重要な起点,進展の重要なところを取り上げており,読み終わった後に現在の研究の最前線においても陳腐化しない知識を抑えることができる。
本書はそうした量子機械学習の研究を始めるにあたり,それぞれの分野の研究者を始め,企業の開発者,大学院生,学部生が読み進めるのにちょうど良い難易度で,バランスよく両分野を意識した配置で書かれた良書である。
「量子機械学習,ないしは量子コンピュータの研究は,言葉だけを受け取ると障壁が高いように感じられる。しかしながらその正体は,両者の分野の過不足のない洗練された内容を学ぶチャンスと言える。両者ともに歴史が古いようで数学や物理学の多くの分野とは異なり,まだ新しい。特に量子コンピュータの登場により,量子力学は学ぶ内容や道筋について,再考が求められているときに来ているだろう。機械学習においてもだいぶその数理的内容が網羅的に整備された後であることを考えると,コンパクトにまとめて両者の関係を見つめながら学ぶのにもっとも効率的な時期を迎えていると個人的に強く思う。本書はそういう背景も踏まえて,だいぶスムーズに基礎的な事柄について学ぶこともできるため,どちらの分野にとっても有益で,相補的な書籍になることが期待できる。」
(監訳者まえがき より)
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