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市内に、敵の一兵たりとも、残存するを許さず。
城内にある敵兵を、徹底的に粛清せよ。以上が命令である――。
『城壁』は、南京大虐殺事件を複数の視点から描き出したばかりではなく、それをいかに歴史として残していくかを問うた最初の小説として、記憶されなくてはならない――。
南京事件を正面からとりあげた唯一の長編小説といってもよい本書を、忘却の彼方から引きずり出す。南京事件をどういう立場から、どういう言葉で残し、記憶していくのか。1964年に河出書房新社から刊行された、直木賞作家が描いた問題作『城壁』を、いま、新たに光をあてるべく、半世紀を経て遂に復刊。解説・和田敦彦(早稲田大学教授)。
【彼は考えていた。歴史というものにたいする疑惑だ。同時に、不信でもある。この南京占領は、歴史にどう書かれるだろう?ここで日本軍隊が何をやったかということを、国民も、後世の人も知らずにすぎるだろうか?(99頁)】
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