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著者はNHKブックス『現象学入門』刊行以来、平易な語り口によって幅広い読者を獲得してきた。フッサール現象学の革新的読解に始まり、プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガーを中心に、古代から現代まであらゆる哲学書を「哲学とは何を行う営みか」との問題意識で読み解いてくるなかで、哲学の真の意義はタレス以来、「誰もがこう考える以外にない、という物の見方」すなわち「普遍認識」を追求することであり続けてきたことを理解する。同時に、20世紀半ばにこのリレーが途絶えてしまったこと、多様な哲学理論の開花にもかかわらず知的パズル解きを超える成果が残されていないことに危機感を抱き、哲学の流れを復興するべくフッサールとヘーゲルの全著作の解読を進めてきた。その成果として自由論、資本主義論、大著の「欲望」論などを書き継いだ末に、さらなる一歩を踏み出した挑戦的な著作が本書だ。
よくある哲学者を並列して解説していく本とは違い、本書は、「哲学本来の力と功績」という観点から見た、哲学の展開への貢献度を基準に哲学者を評価し、2500年の世界哲学史へのクリアなビジョンをもたらす。すなわち、「哲学の方法とは何か・真に重要な功績は何か」を明らかにしたうえで、その方向性に沿って著者が初めて本格的に「いま哲学は何を考えるべきか」を宣言するのだ。
哲学の方法の特徴は、世界を説明する際に、概念と原理を使うこと。かつて宗教は世界説明に物語を使っていたが、哲学はこれを変革し、宗教を超える普遍的な説得力を持つに至った。物語を信じない者も排除されず、言葉を使って、考えの異なる他人をも納得させることがルールとなったからだ。
哲学の功績の1つは、このルールにのっとって自然哲学(のちに自然科学と呼ばれる)を創始したこと。ニュートンの著作名も『自然哲学の数学的原理』だった。もう1つの功績は、誰もが求める「暴力の縮減」のために、人々の意志によって市民国家を創り出したこと。ここでホッブズとルソーとヘーゲルが、普遍認識を社会構想へ反映させた功績者として再解釈される。
自然科学の隆盛を受けて19世紀に勃興した「実証的社会科学」は、コントからマルクス主義や社会システム理論に至るまで、理論は花咲けど議論の一致を見出せない”迷宮”に入った。人間関係の総体である「社会」を自然科学の手法で捉えようとしたことに無理があったのだ。
これを克服するための方法を確立したのがフッサールの現象学だったが、このことはすっかり見落とされていると著者は言う。本書ではこの「社会を捉えるための基礎理論」としてフッサールの功績を、オリジナルの図版も多用して明確に示す。そしてこれを踏まえ、今の哲学の使命であると同時に哲学本来の仕事であったはずの「人間がより自由に生きられるための社会の構築」を進めることを提唱し、その基礎的な考え方を示す。
本書は、ビッグネームたちの功績を重要度別に一括して理解し、哲学全体への一貫した展望を提供する、類例のない“哲学入門”であり、今後の哲学徒が避けて通れない記念碑的な著作である。
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