被差別部落女性の主体性形成に関する研究

被差別部落女性の主体性形成に関する研究

出版社よりお取り寄せ(通常3日~20日で出荷)
※20日以内での商品確保が難しい場合、キャンセルさせて頂きます

出版社
解放出版社
著者名
熊本理抄
価格
5,500円(本体5,000円+税)
発行年月
2020年3月
判型
A5
ISBN
9784759201222

本書は、日本の被差別部落女性の主体性形成に焦点をあて、その形成過程を明らかにするなかで、部落女性が直面する諸問題を考察し、部落女性による運動の今後の課題と展望を提示する。部落女性の主体性はいかなる過程をたどって形成されるのか。部落女性の主体性形成に部落差別からの解放をめざす組織はどのような支援体制を採ったのか。部落女性はそうした体制のなかでどのように主体性形成を追究したのか。「複合差別」概念は主体性形成追究に有用か。これらの問いに答えを出すことが本書の目的である。

 部落差別撤廃を最優先課題として設定した差別のとらえ方と政策対応では、その集団内における他の差別抑圧に関心を払わないという矛盾をきたす。そのため部落女性の状況を考察するにあたっては、従来部落解放運動で使われてきた差別論には限界があり、これまでの差別論を再考する必要がある。なぜならば部落女性は、被差別部落民であり、女性であり、多くが不就学低学歴であり、低賃金不安定非熟練労働者である、といったいずれも逃れがたい条件の絡み合いのなかで生きているからである。

 部落女性の存在や声はこれまで、「同じ部落民」あるいは「同じ女性」とひとくくりにされるか、「部落差別の対象」あるいは「女性差別の対象」という一元的カテゴリーに押し込められ、優先順位がつけられるかで、不可視化あるいは序列化されてきた。「部落差別が解決すれば部落コミュニティのなかの女性差別も解決する」という部落解放運動と、「女性の地位が向上すればマイノリティ女性の地位も向上する」という女性解放運動のいずれもが、部落女性の課題を取り扱ってはこなかった。

 部落女性の経験を明らかにするためには、部落差別を受けさらに女性差別を受けるといった「加算的」(additive)分析では、差別相互の関係性、それらを生み出す構造を理解できないばかりか、ある人たちの経験を固定化し、それに「さらなる」差別を受けていると「加算」することは、「異なる」経験を見えなくする。部落差別や性差別を固定的なものとしてとらえてしまいかねず、差別に序列化を持ちこむ問題もはらんでいる。差別のとらえ方のみならず、主体性論の視点からも「加算的」分析には課題が多い。男性を部落解放の「主体」とする部落解放運動、部落女性を不在とするフェミニズムを足せば、部落女性は解放されるという問題ではない。

 本書は、ブラック・フェミニズムとクリティカル・レイス・フェミニズムの知見に学びながら、部落女性の闘いに導入された「複合差別」という日本語概念を再考し、部落解放運動が展開してきた差別認識と解放理論を問い直す。それは主体性論の問い直しを求めるものである。なぜならば、いくつもの条件の絡み合いのなかに逃れがたく位置づけられている部落女性は、部落男性とは異なる解放のありようを展望しているはずだからだ。本書は部落女性の語りから、部落解放運動が展開してきた差別論と主体性論を問い直し、その再構築への足がかりとすることをめざすものである。

お気に入りカテゴリ

よく利用するジャンルを設定できます。

≫ 設定

カテゴリ

「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。

page top