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まえがき
食品変敗は科学と深く結びついており,科学の発展とともに食品変敗への理解は変化してきている.食品変敗微生物の性質,生育や抑制は,食品製造の方法に依存するところが大きく,変敗の現象は多様化している.これら変敗現象を解明するには,食品の製造を理解し,どこにその原因が潜んでいるのかを明らかにし,そのメカニズムを利用して制御にも活かす必要がある.
微生物の細胞付着変敗現象,特に微生物により形成されるバイオフィルムは,食品と担体との物理的化学的相互作用と微生物どうしが食品上で付着する生物化学的作用である複合的成因を持つバイオフィルムである.微生物細胞間の付着現象は共生のための細胞凝集現象であると古くから知られてきた.これは生存のために他の微生物の関与を避けるために行われる当該微生物の知恵とも言える.このような微生物によるバイオフィルム生成はクオラムセンシングにより行われ,他の微生物による攻撃や防腐剤等から細胞を守るために行われる.また食品変敗現象は単独に起こるのではなく,2つ以上の現象が同時に進行している場合が多い.これらの食品変敗機構を解明することにより微生物の知恵を学ぶことは有益であると思われる.
食品業界は,科学的精神で自社の食品変敗の問題に取り組むべきであり,問題を解決するために必要かつ正確な情報を持つべきである.こうした一般に健全な認識が広く存していることも確かだが,比較的最近まで食品変敗の問題は主としてこれまでの経験に基づいて処理されてきたのではないだろうか.その理由の一端は,食品変敗の原因に対する正確な情報を持つために,研究論文や統計資料を調べ,原因追究をする研究部門が設置されるようになったが,これらの研究部門で得られた事実および結論は内部秘密とされ,これが他の企業のそれと比較されることは少なかったことにも因ると思われる.微生物による食品変敗は一定の規則に従って生成するので,原因解明および対策標準の設定は食品産業全体に貢献すると考えられる.
色々な食品や様々な条件の下で効果的であることが立証されている方法は,基本的な関係に従って収集し分類されるならば,同一または異なった条件の下での他の食品や様々な条件において効果的であると立証された方法と比較することができる.したがって,この基本的原理は,合理的な思考の方向及び健全な判断の形成を示すものとなる.
食品変敗についてできるだけ多くのことを紹介するように努めたが,行き届かない点や不十分な点も多く残っていると思う.また,著者が間違って理解している点があるかもしれない.この点については読者の方々からのご意見やご批判を頂きたいと思っている.
本書が食品変敗の機構に注意を喚起し,この分野で研究する端緒になれば著者の望外の喜びになるであろうと信じている.
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