地球環境が崩壊していくのを目の当たりにしながら、それでも私たちは生き方を変えない。このままではいけないとどこかで感じながらも、どうすればいいのかわからずに右往左往している。
私たちの社会は資本主義・消費主義という「物語」に導かれている。この物語は目に見えない「構造」として、個人の生き方を規定している。生きるための「労働」、スクリーンを眺めて過ごす「娯楽」の時間、市民が参加する余地のない「法律と民主主義」…権力を持つ一部の人間が決めたルールに大勢の人の生き方が構造的に規定され、それに従うことを余儀なくされている。今こそ新しい物語を創造しなければならない。
本書の著者シリル・ディオンは1978年生まれのフランスの環境活動家。2015年に女優メラニー・ロランと共同で製作したドキュメンタリー映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』は、フランスのアカデミー賞ともいえるセザール賞を受賞し(フランス国内動員数120万人)、日本を含む世界30カ国で公開された。本書は映画撮影後に世界各国を回って行われた討論を経て2018年に刊行、生き方を変えようとする人たちに道筋を示すガイドブックとして世界中で多くの支持を集めている。
本書の重要なテーマであるレジスタンスという言葉は、際限のない消費を要求する社会への抵抗といった意味合いだけでなく、新しい物語を創造する個人の実践行為としての意味も込めて用いられる。「物語」とは人間が世界に独自の意味を与えるフィクションのことである。そして「創造」とは何よりもまずわくわくする行為であり、そこから生まれた個人の物語が集団の物語へと波及していく。そうした流れを作り出すために、著者は現実を取り巻く社会の「構造」を分析し、協力し合う集団を生み出す具体的な方法と、意識を他者(自分以外のすべての存在)へと向ける大切さを語る。
多岐にわたる横断的思考実践を語り伝える言葉の中に、著者の人間性と他者への信頼がひしひしと感じられる作品となっている。個人主義が先鋭化する現代の社会において、他者へと開かれた物語の創造を呼びかける本書は、言葉や文化の壁を越えて、世界をあきらめず新しい一歩を踏み出そうとする人たちの背中を押してくれる。(まるやま・りょう たけがみ・さきこ 仏翻訳家)
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