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現実的ではないけど、拡張現実的ではある。
2011年4月-2020年2月まで、雑誌「TV Bros.」でおよそ10年間にわたって連載されたコラム初の単行本化。
さらに、フイナムとクイックジャパンウェブに書き下ろした原稿も収録。
通りすがりの天才・川田十夢が、言葉と文体によって事象の拡張を試みた文学的スケッチ。創作のアイデア、未来への提言、過去のサンプリング、現在芸術論、クールな時評からハートウォームなエッセイまで、膨大な思索が濃縮して綴られた高密度テクストの集大成。
<はじめに>
時間と速度を掛けると距離が出せる。算数の時間に習った不思議な公式。半分は正しいが、半分はまだ疑っている。楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。この説明責任を、あの不思議な公式は、まだ十分に果たしていない。例えば国を左右するような重要な決定を好き嫌いだけで選ぶ。この閣議決定はきっと国民の反感を買う。だけど実際問題、人間の好き嫌いほど合理的で緻密なセンサーはない。人類の歴史は、あいつ嫌い。死ねばいいのに。あの人のためなら死ねる。わたしの推しを軽んじるなんて酷い。末代まで呪ってやる。この繰り返しに他ならない。好き嫌いでいうと、ビューンって感覚が好き。理屈っぽいのは嫌い。考え尽くした人間特有の明るさが好き、あんまり考えていない人間の暗さが嫌い。怒ってないと言いながら本当は怒っている人は苦手。わたし怒ってます、顔には出さず言葉に出して静かに怒る人が好き。ゲラゲラ笑う人が好き、うふふと笑う人も好き。笑う人全般好きだけど、人を馬鹿にした笑いは嫌い。言葉には顔がある。表情を持つことも、無表情に徹することもできる。言葉に出すということは、現実とは別の時計を持つということ。空に投げた言葉は温度を失う。土に埋めた言葉は光を失う。出力された言葉はインクが乗った順番で古くなる。摩耗し、退色し、朽ち果てる。言葉には言葉の宿命がある。パジャマを着たまま街へ出ると、夢みたいになる。すーっと人間が離れてゆく。存在に疑問符が打たれる。命が揺れるとき、夢は鮮明にシフトする。この本は、現実的ではないというだけの理由で俎上に載せられてこなかった森羅万象を扱っている。上から目線というよりは火の鳥目線、地球の歩き方というよりは地球の吸い方。この本のタイトルは拡張現実的、いきなり本題から入りました。
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