公家と武家。それぞれはどう影響し合い、新しい文化を創りあげていったのか。香文化から江戸初期の文化伝播の様相を捉え直した書。
武家側から貴族に流入した香文化に関する情報は、香木の献上がほとんどであったが、本書の著者たちは、水戸市立博物館に伝わる『香道明鑑』によって、東国の武家、徳川頼房から京都の後水尾天皇に香道の〝手引き書〟が贈られたことをつきとめる。香木や他の香材料ばかりでなく、高度な香文化そのものが武家から公家へと贈られていたのだ。
従来「香文化は、宮廷貴族から武家や町人に伝わった」とする、一方向だけの伝来が考えられていたが、実はそうではないのではないか――。家康と香から解説をはじめ、貴族と武家の香文化を詳説、水戸藩初代頼房由来の貴重な香書、『聞香伝書』『香道明鑑』『聞香目録』『十〓香之記』を本文・訳・語釈で紹介。江戸初期の香がつないだ文化ネットワークの様相を浮かび上がらせる。
京と地方の文献比較に加えて、皇族や公家の遊び文化の中に「香会」を位置づけ、婚礼調度を代表とする香道具という新視点も取り入れることによって未開拓といってもよい江戸初期の香文化事情を解明。謎解きのように読み進めるうちに、香文化への興味もわいてくる、エキサイティングな書。
【本書は、公家文化と武家文化とが融合する江戸時代初期に注目し、宮廷を中心とする皇族・貴族の香文化と江戸や水戸を中心とする関東武家の香文化とが、香木や香書を媒介としてどのように関係し、影響し合い、新しい香文化を創り上げてゆくのか、その様を捉えようと試みたものである。
香文化を考える上で、京都中心の視点の重要性は疑うべくもないが、地方武士からの文化発信に注目するとき、従来には気づかれなかった、新しい世界が見えてくるのではあるまいか。江戸時代の文化を巨視的に見るとき、江戸を中心とする関東文化が、京都を中心とする関西文化に流入してゆくベクトルをも持ってくる時代であると捉えることができよう。香文化の世界においては、その早い例が、すでに江戸時代の初期に見られるようだ。…】……「はじめに」より
よく利用するジャンルを設定できます。
「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。